モンティ・ホール問題で扉を変えない選択は
新しいゲームの企画書を作ることを命じられた新人ゲームプロデューサーのS氏は、メインヒロインの属性をどうするかで悩んでいた。
(ツンデレ、幼なじみ、無口……二次元女の子の属性なんて今までの製作者達によって出尽くしている、50種類くらいじゃないのかな)
そこへ新しく作るということもS氏にはできなかったので、書き出したリストの中から選ぶことにした。
「クーデレで行こう」
でも企画書を書き終えて提出するときになって、悩んでしまった。その原因は先輩プロデューサーの門茶氏にある。
門茶氏は自他ともに認めるドジっ子不思議ちゃんという属性好きである。本人は「自分が好きでもドジっ子不思議ちゃんは受けないと思うんだよねぇ」とよく言っていた。しかし考えが変わったのか、次にプロデュースしたゲームではメインヒロインはドジっ子不思議ちゃんだった。
そして先日そのゲームがリリースされ、爆死(売れなかったことのスラング)したのだ。リリース日のアクセス数は散々なものであった。
リリース前、最後に居酒屋で見た親指立てて去っていく門茶氏の背中を苦い気持ちで思い出しながら、S氏はあることを考えていた。モンティ・ホール問題だ。
モンティ・ホール問題とは、まず扉が3つあり、その中に当たりが1つだけある。プレイヤーが1つの扉を選ぶ。その後、答えの知っている司会者が、残っている扉の中から正解ではない扉をランダムに1つ開けて見せる。そのあとにプレイヤーは開ける扉の選択を変えると、当たりを引く確率が高くなる。という話だ。詳しくはWikipediaでも読んでほしい。
S氏には今の状況がモンティ・ホール問題に似ているように思えた。
ゲームの神様なら属性の中から売れるものを知っているに違いない。そして属性の中から、S氏がクーデレを選んでから門茶氏が失敗と知りつつドジっ子不思議ちゃんの扉を開いたということになる。
(モンティ・ホールに照らし合わせると、自分はここで選んだクーデレという選択を変えたほうがヒットする確率は上がるのだろうか?全くこの企画書と関係ない門茶先輩のゲームの結果の影響で?)
S氏はわからなくなった。変えようか、変えまいか……。そういう時は一旦自己を見つめ直すことにしていた。なぜクーデレを選んだのか考えてみたのだ。そうすると浮かび上がることがあった。
もしかすると「売れる」=「珍しい要素が入っている」と考えていたのではないか?
売れるものには何かしら「物珍しい」または「新しい」ことは必ずある。そこから、メインヒロインの性格の中から最も現在物珍しいのではと思ってクーデレを選んだのではなかったか。または「自分が好きだから」=「売れる」という考えもあったのではないか?
S氏は嘆いた。物珍しかったから、自分が好きだったから「売れる」なんてそんな訳はない。斬新でわかりやすい企画、たくさんのトライアンドエラーで作るゲーム性、ターゲットにリーチする宣伝など、もっと創造的でサバイバルで確かな軌跡のあとに「売れた」は来るはずだ。
S氏はモンティ・ホールとの関連について考え直した。つまるところ、1回目と2回目の選択で正解を変えていたといえないか。最初の選択で売れることを考えていないのに、次の選択で売れるか悩んでいたのだ。
(そして思い返せば、門茶先輩の選択とその結果は参考になることばかりだった。これを受け取れば自分の企画はより良くなるはずだ)
人間、正解と失敗がわからないまま扉を選択していることも多いのかもしれない。それらは捉え方で容易く入れ替わる。プレイヤーは最初の選択から成功を選んでるつもりで失敗を探してしまっていたり、司会者の方が正解を引いてしまうこともある。モンティ・ホール問題のように選択を変えたほうがいいことも勿論ある。
「なら俺はクーデレで行く」
正解と間違いがわかった。先輩のおかげで、あとの選択肢はすべて正解になったのだ、そういう強い気持ちでS氏は企画書を提出した。その目はやる気に満ちていた。
そのあとS氏のゲーム企画はいろいろな経過をたどりリリースされた。完成したときのメインヒロインの属性は「バブみクーデレ」となっていた。売れたのかは誰も知らない。
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